2024年4月23日火曜日

チップバーンはなぜ抽苔期に発生するのか?

 今回は研究のご紹介です。一昨年度当研究室の修士課程を修了した舩木さんの研究成果が、Scientia Horticulturaeに掲載されました!(オープンアクセスですので、下記URLより、どなたでもご確認頂けます)

論文のタイトル:Exogenous application of gibberellic acid reduces antioxidant capacity of leaves, resulting in increased Tipburn damages in Lisianthus cultivars

和訳:トルコギキョウにおいて、ジベレリン散布は抗酸化能を低下させ、チップバーン被害を増加させる。


 本研究は、今回のブログタイトルにあるように、「チップバーンはなぜ抽苔期に発生するのか?」に着目して、チップバーンの発生メカニズムを明らかにしようとした研究です。チップバーンは、葉先のCa欠乏症の総称であり、レタスやハクサイ、イチゴなどでも問題になっている生理障害です。
 このチップバーンは、抽苔期や花芽分化期に発生することが知られており、ハクサイではジベレリン(抽苔や花芽分化のトリガーになる植物ホルモン)を散布すると、チップバーンの被害度が増加することが分かっています。しかし、「なぜチップバーンは抽苔期に発生するのか?」を説明可能な情報はほとんどありませんでした。
 そこで、当研究室では、トルコギキョウでも同様に、ジベレリンを散布し、チップバーンの被害度やCa濃度、抗酸化能へ与える影響を調査しました。その結果、ジベレリンを散布すると、明らかにチップバーンの被害度が上昇しましたが、葉のCa濃度に変化は確認出来ませんでした。一方で、抗酸化能が有意に低下していることが明らかとなり、品種&処理区毎のカタラーゼ活性とチップバーン被害度には、有意な負の相関関係が確認されました。
 
 抗酸化能?とお思いの方もいるかもしれません。生理障害の場合、「卵が先かニワトリが先か」という議論は付きもので、チップバーンになりそうだった(不健康だった)から、抗酸化能が低かったのでは?というツッコミにも、今後「完璧に」お答えする必要があります。しかし、現時点で、当研究グループでは、以下のような情報から、チップバーンの発生に抗酸化能が関係していると考えています。
①抗酸化能の調査は、チップバーンが発生する前の葉で行っていること。
②DELLAと呼ばれるジベレリンの代謝に関連するタンパク質が、抗酸化能を維持・向上に貢献することが、モデル植物で明らかになっていること。
③花芽分化には、カタラーゼが低下し、H2O2濃度が上昇する必要があることが、モデル植物で明らかになっていること。

 かなり専門的になってしまいました…
 要約すると、この研究では、「なぜチップバーンは抽苔期に発生するのか?」について、ある程度の予想がつく段階までは、明らかにすることができたということです。さらに、これまで「Ca」だけで議論されてきたチップバーンですが、「抗酸化能」にも着目することが重要であることが分かりました。Caが多く存在すると、抗酸化能が高くなるという先行研究もあります。
 チップバーンの発生メカニズムの解明という大きな目標に対し、また一歩前進することが出来ました。まだまだやることはたくさんあるので、引き続き精進していきたいと思っております!


黒沼


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