「月ってこんなにキレイなんだぁ。」
ため息をつきながら、夜空にひときわ輝くまんまあるい月を初めて見ていた。
生まれたのはここ。千葉県柏市。
「ずっとすっと昔のご先祖様はね、遠い遠い暖かい国で育ったんだって。お母さんが言ってたよ。」
何人もいる姉妹の中でも一番もの知りな「ゆき」が教えてくれた。
つい長話をしてしまい、2人とも疲れたのか、いつの間にか眠ってしまった。
遙か遠い南米の地には、今もご先祖様の子孫たちが
ひっそりと暮らしていることなど、2人はもちろん、母でさえ考えたこともなかった。
高層マンションの間から朝日が差し込み、
うっすら眼を開けて空を見上げると、
あの丸い月はもう見当たらなかった。
スズメ達のおはようの歌と、聞き慣れたカラスのあくび声が聞こえた。
「今日はいいお天気だよ。おはよう」
「ゆき、おはよう。月はどこに行ったの?」
「月はね、夜になったらまた見えるよ。晴れの日の夜はね、毎日見えるんだよ。」
「うそ! 私、あんなにまん丸い月を見たのは昨日が初めてよ。」
「今まではカーテンが掛かってたから見えなかっただけよ。
夜も暖かくなってきたから、昨夜はカーテンを閉めなかったの。」
「そぅ。。。
じゃあ、いつも見ていた あのボヤーッとした黄色い明りが月だったのね。」
南からのそよ風が、扉の隙間から1匹の蝶を運んできた。
「黄色いちょうちょさん、おはよう。今日も来たのね。」
「知ってるの?」
「ゆき、あなたは一昨日まで眠ってたから知らないかもしれないけれど、
このちょうちょさんに会うのは今日で3回目よ」
「ほら、ああやってひらひら舞いながら、ぐるっとお部屋を1周するの。
そしてね・・・、ほら!私にとまった!
たくさんいる姉妹の中で、私にだけとまるの。不思議でしょ?」
パタパタとしていた羽をたたみ、やがてモンキチョウは口から長いストローを伸ばす。
「ゆきちゃん、話があるの。」
きりっとした決意の声を急に聞いたモンキチョウは、
少しびっくりして飛び立ち、すぐ近くのゆきにとまった。
「あっ!私にもとまった!!」
ゆきが喜んでいるのを眼を細く眺めながら、話を続けた。
「私・・・今日遠いところに行くの。 愛知県よ。」
「えっ?」
「私たち姉妹の仕事はね、ゆき、たくさんの人を笑顔にすることなのよ。
そして私は今日旅立つの。
大丈夫!きっとゆきも近いうちに旅立てるわ。」
あまりにも自信に満ち溢れた言葉に、ゆきはただただ頷いていた。
たった1株の母株から何ヶ月もかけて10万株にも増えていった姉妹達に別れを告げた。
「みんな、私行ってくる。
私にはもう会えないかもしれないけれど、
これからはきっとこの姉妹達がたくさんの花を咲かせるわ。
さようなら、ちょうちょさん!」
「私の名前はペチュニア。
【さくらさくら】っていうの!」
ガラス温室に別れを告げたさくらさくらは、
人々を笑顔にするべく、
遠く愛知県のお花屋さんへと旅立っていった。
溢れそうになる不安を、満ちあふれた根拠のない自信で覆い隠すさくらさくらの芽には
遠い昔、たった1株で日本へと旅立ったご先祖様「ペチュニア原種」の眼差しが宿っていた。
出荷トレイ
とさ。
(このお話はフィクションです)
(長嶋)
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