2023年10月3日火曜日

芝地の温室効果ガス収支 その②

 先週からの続きとなります。前回同様、本記事は、Inclusive greenhouse gas budget assessment in turfs: From turf production to disposal of grass clippings(和訳:芝地における包括的な温室効果ガス収支評価:芝の生産から刈り芝の廃棄まで)というタイトルで、掲載された論文の内容を簡単に纏めたものです。https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0301479723017073

 

今回は、刈った芝を廃棄する際の温室効果ガスの排出量は?について、ご紹介します。

「植物は光合成によってCO2を固定します。そのため環境に良いです。」というのが、一般的なイメージかと思います。しかし、光合成によって固定されたCO2は、焼却処分などの植物が廃棄されるタイミングで再び大気中にリリースされてしまいます。芝などの草本植物は、木本植物と比較し、この廃棄に至るまでの期間(寿命)が一般的に短いと想定されるため、CO2固定に対する貢献も懐疑的な意見が多いのが現状です。その結果、カーボンクレジット等の制度設計において、木本植物に後れをとっています。

では、この廃棄という「パンドラの箱」を開けてもなお、芝地が環境に良いことが証明されれば、草本植物だって、温室効果ガスの固定に貢献できることを証明できるのでは?というのが、本研究の一つの肝です。

切り芝の生産時や、ゴルフ場などの芝地の維持管理時において、芝刈りは、必須の作業です。我々の調査によると、芝刈りで発生した刈った芝(以後、刈り芝)は、焼却処分もしくは野積み(一か所に纏めて放置)という形で、廃棄されるのが一般的であることが分かりました。加えて、近年注目の集まるバイオ炭という技術に着目し、本研究では、刈り芝「焼却」、「野積み」、「バイオ炭」の3つの方法をとった場合の温室効果ガスの排出量を定量しました。

 

野積みされた刈り芝の様子


その結果、新鮮重1tの刈り芝を焼却する場合は0.7 t-CO2e、野積みの場合は0.2 t-CO2eの温室効果ガスが放出されることが分かった一方で、バイオ炭にした場合は-0.2 t-CO2eの温室効果ガス削減(固定)に繋がることが明らかとなりました。

この数値を算出したことによって、切り芝の生産段階や芝地の維持管理段階の温室効果ガス収支を網羅的に定量していくことが可能になりました。

では、古い芝地を廃棄(撤去)する場合はどうなの?というツッコミが聞こえてきますが、それは今後の宿題かなと思っています。もちろん、今回の刈り芝の値とそう違わないと思いますし、今回の論文では、論理的な矛盾を生じてしまうため、調査の対象外としたという経緯もあります…(言い訳)

上記のように今後も調査すべきことは多いですが、木本を含め、植物の温室効果ガス収支の評価に関する論文で、「廃棄」を加えた知見は、私の知る限りでは初と思います。そのため、今回のデータは緑化や植物生産時の「廃棄」に関する貴重な知見を提供できたといえます。

 次回は、「種子などから切り芝をつくる際の温室効果ガス収支は?」をご紹介します。


黒沼

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