卒業論文発表会も無事終了し、研究室内のビックイベントが一つ終了しました。春は卒業とともに、植物の活動が活発化してきます。卒業の寂しさと、植物の活動量が増えることを考えると、「春よ来い」ではなく「冬がはじまるよ」を聞きたい気分ですね。笑
さて、今日は、先日掲載された論文についてご紹介します。
タイトルは「Tipburn incidence and Ca acquisition and distribution in lisianthus (Eustoma grandiflorum (Raf.) Shinn.) cultivars under different Ca concentrations in nutrient solution.」(異なるCa濃度下におけるトルコギキョウのチップバーン発生とCa獲得および分配)です。
オープンアクセスジャーナルと言い、論文が無料でダウンロードできますので、興味のある方は下記をご参照ください。
https://www.mdpi.com/2073-4395/10/2/216
概要について、簡単にお話しさせて頂きます。チップバーンとは、園芸植物でよく発生するCa欠乏症です。Caが不足しているのであれば、Caをたくさん施与すればいいのでは?と思う方も少なくないと思います。しかし、生産現場ではCa施肥量を上げたり、Caを葉面散布しても、チップバーンが発生してしまうため、問題となっている訳です。
チップバーンには、様々な要素(湿度、光強度、風、植物の成長速度などなど)が複合的に関与することが知られています。これまで、当研究グループではトルコギキョウのチップバーン発生について調査を行ってきました。今回掲載された論文は、「Caの施与量を上げると、チップバーンの発生とCa獲得および分配はどう変わるのか?」を調査した論文です。
結果はどうであったかと申しますと、まずCa施与量を増加させた場合、チップバーンが抑制された品種と、あまり抑制されなかった品種の2つのパターンが確認されました。一方で、Ca施与量を増加させると、全品種でCa獲得量の増加が確認され、成長速度に処理区間の差はみられませんでした。つまり、高Ca環境下でチップバーンが発生する品種は、Ca分配に問題があると想定されます。そこで、部位毎のCa濃度を測定すると、高Ca環境下でチップバーンが発生する品種は、根にCaを蓄積する傾向がある一方、葉先へのCa濃度が低い傾向にありました。このCa蓄積・分配の原因については、更なる調査が必要ですが、当研究グループでは遺伝子の発現にヒントがあるのではないかと考えています。
もう一つ、本研究ではpath analysisと呼ばれる手法を用いて、Caの獲得と分配の関係性を数値化することに成功しました。この解析手法は、植物の生理的形態的な相互関係を示すのに大変有用な手法と考えられます。詳細は、是非論文をご確認ください。
調査をする度に、新たな疑問が生じてきますが、一つずつ確実に前進しております。本論文も含め、ご意見・ご質問等御座いましたら、黒沼までメールにてご連絡頂ければ幸いです。
(黒沼)
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