天候によって寒暖の激しさを感じる季節。
昼に厚着のままで過ごしていると、服の下がじっとりと汗で湿っていることも。
暑い、とまでは感じなくとも、水分補給はしっかりと取らなくてはいけませんね。
さて、やわらぐ寒さとともに、植物の芽吹きもちらほら見かけられるように。
足元には黄色い花が顔を覗かせていました。
こちらは福寿草 Adonis ramose Franch.です。
春を告げる代表的な花のひとつで、新春に咲くことから元日草(がんじつそう)、朔日草(ついたちそう)などの別名もあります。
福寿草という名の漢字からみると縁起の良いイメージがありますが、西欧での花言葉には「悲しき思い出」という言葉もあるそうです。
それは福寿草の学名に由来するもので、ギリシャ神話に登場するアドニスという少年が森狩りに向かった時に、不運にも猪に襲われ命を落としてしまった際、流れた血で染まった花がAdonis属であるといわれています。
花言葉はアドニスの死を悼んだ美の女神ヴィーナスの悲しみに由来するとか。
日本に自生する福寿草をはじめとするAdonis属はどれも黄色系の花色を示すため、逸話にいまいち納得しかねますが、西欧に咲くAdonis palaestinaという種は赤い花を咲かせるため、そちらが逸話元になったのではないかと考えられます。
学名の意味や逸話から想像するのは、1000属検定をはじめ、植物の学名を覚えるのに効果的ではありますが、時として実物との乖離がイメージの混乱を招いてしまうこともありそうですね…。
地面から芽を出した頃は、同時期に天ぷらなどで食されるフキノトウにも見えます…が、こちら、食べてしまっては一大事。
全草有毒の植物であり、嘔吐や呼吸困難、時に命に関わるような場合もありうるため、間違っても口にしてはいけません。
フキノトウの見た目はやや薄い黄緑色で光沢がないのに対し、福寿草では光沢のある芽と、つぼみから黄色の花弁が顔を覗かせているため、区別がつけられるでしょう。
しかし、いつも紹介している植物と同様、毒も薬も表裏一体。
根に多く含まれるシマリンなどの強心配糖体という成分は強心や利尿作用を示し、福寿草の根を乾燥させたものは「福寿草根(ふくじゅそうこん)」という生薬として利用されます。
もうすぐ3月。
これから賑やかになるであろう春の光景を予感させる、見るには「吉」の華やかな植物でした。
(安藤匡哉)
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